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東京高等裁判所 昭和29年(ラ)454号 決定 1955年1月26日

抗告人 長田早苗

右代理人 青柳孝

<外一名>

相手方 浜田猛

<外一名>

右代理人 長谷川一雄

主文

原決定を取消す。

本件異議申立を却下する。

異議並に抗告の費用は全部相方等の負担とする。

理由

本件抗告の理由の旨は次のとおりである。

別紙目録記載の土地及び建物は抗告人の所有であるが、相手方両名は右不動産を訴外大森道弘から買受けたと称しその建物を取毀しその跡地え建物を建設せんとするに至つたので抗告人は相手方等に対し甲府地方裁判所に仮処分申請をなし昭和二十九年九月四日「(一)別紙目録記載の土地に対する相手方両名の占有を解き抗告人の委任する執行吏の保管に付する、(二)相手方等は本件地上に建物を建設し工事を進行してはならない、(三)執行吏は現状を変更しないことを条件として相手方等に右土地の使用を許すことができる」旨の仮処分決定を得、同月六日同裁判所執行吏山岸長作に委任してその執行を了した。(以下これを抗告人仮処分と略称する)。然るに相手方等は「本件不動産についてはこれより先、同年八月十日申請人浜田米久(本件相手方の一人)被申請人長田早苗(抗告人)間の富士吉田簡易裁判所同年(ト)第九号仮処分事件において「被申請人(抗告人)は本件土地を申請人(浜田米久)が占有使用することを妨害してはならない」旨の仮処分決定(これを相手方仮処分と略称する)があつて、右決定は同月十二日抗告人に送達されているから抗告人仮処分は右相手方仮処分と牴触する違法の仮処分であるから執行吏はこれが執行を為すべからざるものである」との理由を以て同年十月二日甲府地方裁判所谷村支部に執行方法に関する異議申立をなし、同裁判所は同月十二日これを入れて抗告人仮処分の執行を許さない旨の決定をなし、該決定は同月十四日抗告人に送達された。しかしながら該決定は左記理由により違法であるからその取消を求める。

(一)  抗告人仮処分は土地所有権を理由とするものであり、相手方仮処分は占有権を基礎とするものであるから右両仮処分は何等牴触するものではない。

(二)  相手方仮処分は単に占有妨害禁止という不作為を命ずるものであり抗告人仮処分は目的物件の占有を執行吏に移しているけれども、現状不変更を条件として相手方に占有使用を許しているのであるからその仮処分の内容に於ても牴触するものではない。

(三)  仮に抗告人仮処分が違法のものであるとしても、執行吏はその仮処分命令の内容を審査する権限はないからその執行受任を拒絶すべきではなく、従つて執行吏がこれを受任して執行なしたことについて何等執行上遵守すべき手績に違背した点はないから、これに対して執行方法に関する異議申立を認めるべきではない。

よつて按ずるに民事訴訟法第五百四十四条の執行方法に関する異議は執行機関の執行がその執行に際して遵守すべき手続上の規定に違背して行われた場合に申立つべきものであつて債務名義自体の内容を争う場合にはこの異議によるべきではない、然るに本件異議の理由は、するに「抗告人仮処分はさきに富士吉田簡易裁判所のなした相手方仮処分とその内容において相牴触する違法の仮処分である」との前提のもとにかかる仮処分の執行は許すべからざるものであるというに帰するのであつて、仮処分命令自体の不法不当を主張するものであるから、先づ仮処分に対する異議申立を以て該仮処分命令の取消を求むべきであり、たとえ違法の仮処分命令であつても、これが取消されない限り当然無効ではないのみならず、その仮処分命令の執行委任を受けた執行吏は該命令の内容に立入りその有効無効を審査判断する権限はないのであるから本件仮処分の執行委任を受けた執行吏が該命令の趣旨に従つてこれが執行をなしたことは当然であつてその間何等執行吏の遵守すべき手続上の規定に違背した点は認められない。

そうすると、原審が本件仮処分命令に基いて執行吏のなした執行を手続上違背であると判断して本件異議を認容したのは失当であるからこれを取消し本件異議はその理由がないからこれを却下すべきものとし、異議並に抗告の費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長判事 岡咲恕一 判事 亀山脩平 草間英一)

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